これまでの研究

これまでの研究内容

概要

核内受容体は脂溶性ホルモン類をリガンドとする転写因子であり、細胞分化やエネルギー代謝に重要な役割を果たします。私は、核内受容体および転写共役因子に着目し、肥満・生活習慣病における遺伝子発現制御とその病態生理的意義を解析しました。骨格筋や脂肪、肝臓といった臓器における代謝ネットワークの解明により、生活習慣病発症の分子機序の理解が深まり、新しい創薬ターゲットの同定や機能性食品の開発につながることが期待されます。

はじめに

内臓脂肪型肥満を背景として発症するメタボリックシンドロームあるいは糖尿病、高血圧症、動脈硬化症などの生活習慣病は、遺伝素因と環境因子の相互作用により発症する多因子疾患です。核内受容体はステロイドや脂溶性ビタミン等のホルモン類をリガンドとする転写因子であり、食品などの環境因子のシグナル伝達に重要です。私は、核内受容体とその転写共役因子が肥満形成に及ぼす影響を明らかにすることにより、メタボリックシンドロームの病態生理の解明や新しい治療・予防法の開発に貢献したいと考え、これまで研究に取り組んで来ました。

研究1

私は学生時代より現在に至るまで、食物などの環境因子が生体に及ぼす遺伝子発現調節の作用機序に関する研究を一貫して推進しています。大学院では、脂肪細胞に分化する培養前駆脂肪細胞として3T3-L1細胞を用いて、ビタミンA, Dのような脂溶性ビタミン類が脂肪細胞分化を強く抑制することを見出しました(図1参照)。当時、ビタミンA, Dの受容体が発見され、ステロイドホルモン等の脂溶性分子をリガンドとする核内受容体型の遺伝子発現調節因子であることが判明しました。このように食品由来の微量成分が生体の遺伝子発現調節に関与することに大変興味を持ち、この分野の研究に貢献したいと考えました。

研究2

博士課程修了後、米国カリフォルニア大学に博士研究員として留学し、核内受容体による遺伝子発現調節機構を主に培養細胞や試験管内でのin vitroの手法を用いて解析しました。その結果、核内受容体がCBP/p300やSRC等の複数のコファクター蛋白質(転写共役因子)と蛋白質-蛋白質相互作用して機能することを証明しました(図2)。この研究成果は核内受容体型転写因子の作用機序を説明するモデルとして国内外で高く評価されています(新聞記事PDF)。

研究3

骨格筋は人体で最大の組織であり、エネルギー代謝・糖取込み・運動において重要な役割を果たします。一方、ヒトの基礎代謝は骨格筋量に比例し、適度な運動により肥満や糖尿病が改善するため、骨格筋機能の活性化は生活習慣病の予防に重要です。私は、生体の外部の環境変化に応答する代謝調節機構に着目し、ゲノムプロジェクトのDNA情報をコンピューターサーチすることにより、骨格筋において高発現する転写共役因子としてPGC1βを発見しました。そして、PGC1βが核内受容体ERR(エストロゲン受容体関連分子)を特異的に活性化すること、PGC1βの発現増加によりエネルギー消費に関与する一群の遺伝子の発現が増加し、体重増加が抑制されることを明らかにしました。(
図3)さらに、ERRの遺伝子型の疫学的調査を行い、日本人の肥満度とERRの遺伝子型に相関が認められることを発見しました。以上の研究成果は新しい抗生活習慣病予防の食品開発・創薬の手がかりを与えるものです。(図4および論文PDF

研究4

以上の研究に引き続き、私は、絶食等のエネルギー欠乏状態によりマウス骨格筋において転写因子FOXO1遺伝子の発現が著しく増加することを見出しました。骨格筋特異的にFOXO1を過剰発現する遺伝子改変マウスを作出すると、FOXO1が筋萎縮を引き起こし、さらに飢餓応答に重要な役割を果たす可能性を示しました(図5および図6)。一方、核内受容体RXRγの骨格筋における過剰発現により骨格筋の脂肪含有量が増加し、肝臓の脂肪蓄積が減少することを見出しました。これらのPGC1β、FOXO1、RXRγの研究を通じて、骨格筋が生活習慣病の発症・進展に関連すること、特に、臓器間の代謝ネットワークの重要性が明らかになりました。

研究5

さらに、生活習慣病の臓器代謝ネットワーク解明の目的で、転写因子を介するDNAクロマチン修飾によるエピジェネティクス制御について解析しました。そして、肝臓の脂質代謝がDNAメチル化制御を受けることを見出しました。すなわち、転写因子SREBP1cにより肝臓脂肪合成律速酵素のGPAT1遺伝子がDNAメチル化を介した遺伝子発現制御を受け、さらには母親の栄養条件により仔マウス肝臓のGPAT1遺伝子のDNAメチル化量が変動し肝脂肪蓄積量が変動しうることを見出しました(図7)。従来、DNAメチル化のようなエピジェネティクス制御は、個体発生や発がんにおいて良く知られていますが、成年期に発症する慢性疾患における生理的・病態生理的意義は不明でした。核内受容体・転写共役因子を介するDNAメチル化標的遺伝子を同定・解析することにより、食品や栄養条件・環境ホルモンといった環境因子による肥満・生活習慣病のエピジェネティクス制御の分子機構の解明の手がかりを獲得しうることが期待されます。