はじめに:亀井教授より
研究について
私たち分子栄養学研究室では「食物と代謝」に注目しています。その課題のひとつとして、生体の恒常性維持と環境因子によるその破綻(生活習慣病)をモデル化し、分子レベル・個体レベルの両面から解明し、社会への還元を目指しています。このためには、遺伝子情報のみならず、細胞内・臓器間の生体内機能制御機構を観察・理解し応用していくことが必要です。これらの前提をふまえた基礎研究を推進し、人間の健康や豊かさを追求する応用研究へと発展させることを、分子栄養学研究室は目指しています。
具体的には、主要な柱として、生活環境が人体に及ぼす積み重ねによって生じる大きな社会問題である生活習慣病に焦点を当てて研究を推進したいと考えています。これまで私は食物(脂質)によって調節されうる核内受容体関連分子による遺伝子発現調節の研究を一貫して行なってきました(*「これまでの研究」参照)。今後の研究において、これまでの研究を発展させ、生活習慣病に密接に関連する臓器において核内受容体関連分子を出発点として生体内での作用機序を解析します。すなわち、適度な運動は糖尿病や肥満を防ぐことから、十分な骨格筋機能を保つことは生活習慣病予防の観点から重要です。そこで特に骨格筋に着目し、独自に開発した様々なモデル動物を利用し、食物をはじめとする環境因子による骨格筋機能不全の予防法の探索における科学的な基盤を得ることを目指します。
また、佐伯准教授が中心となったグループでは、大腸がんの原因の一つとなる胆汁酸の生体内での動態と作用機構の解析や、大腸発がんを抑制する作用を持つ食物成分の同定などの研究を行なっています。
Keyword
生活習慣病、肥満、骨格筋,核内受容体,ビタミン,アミノ酸,遺伝子発現
胆汁酸,大腸がん
進学希望者へメッセージ
農学分野における生命科学研究は、ひとつには、健康で豊かな人間生活・生存基盤の確立を見据え、生命現象を観察し理解しようとする自然科学の学問であると考えます。私自身は大学に入学後、農学部の学生として食品・栄養生化学およびバイオテクノロジーについて学びました。また、卒業研究・博士課程研究を通じて、日夜、実験に没頭する機会を得ました。そして、実験科学の重要性を実感することができました。これらは現在に至るまで私自身の研究者としての原点となっています。ある研究テーマについて何年間か地道に取り組む事によって、研究者としての体力がつきます。研究は面白いです。
現代社会には、遺伝子治療・遺伝子改変動植物・環境ホルモン等、専門家の判断だけに委ねることができない様々な問題が数多くあります。自ら考え、次の時代の要請に応えることができる広い視野を有する学生、すなわち、専門的な知識・技術を有し、かつ専門分野だけにとどまらず広く柔軟な視野を持つ人材が成長する場として分子栄養学研究室は扉を開いています。京都府立大学を舞台に、共に生命科学の新たな研究の開拓・創出を目指しましょう。
京都府立大学 生命環境科学研究科 分子栄養学研究室
教授 亀井康富