現在・今後の研究

現在・今後の研究

骨格筋は人体で最大の組織であり、タンパク質・アミノ酸から構成されています。そして、運動、エネルギー代謝に重要です。適度な運動は肥満や糖尿病を防ぐことが知られています。このように骨格筋機能の保持は健康増進のために重要です。一方、加齢等によりサルコペニアと呼ばれる筋力低下が生じます。図1は、骨格筋萎縮と運動量減少の悪循環を示しています。すなわち、「運動量が低下すると筋量が減少し、そのために運動量が低下してさらに骨格筋量が減少する」というものです。筋萎縮が進むと寝たきりや車いす生活になり、生活の質が低下してしまいます。少し前に「メタボ」という言葉が流行になりましたが、最近は、この運動機能に関する病態について、ロコモーティブシンドローム「ロコモ」というように呼ばれています。筋萎縮は高齢化社会で大きな問題となっています。

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[図1]

このような背景のもと、私たちは筋萎縮とアミノ酸代謝について研究を行っています。図2に示すように、私たちはFOXO1とPGC1αいう名前のふたつの因子に着目しています。骨格筋が萎縮するときには筋タンパク質が分解され、アミノ酸代謝が変動します。この筋萎縮にFOXO1が重要であると言うデータが得られています。一方、必須アミノ酸であるBCAAは筋萎縮を抑制するということがいわれています。これに関して機序の詳細は不明です。またこのBCAAは骨格筋でのエネルギーとして使用されうるため、BCAAを摂取することにより運動能力が向上します。このBCAAの代謝にPGC1αという因子が重要であることを私たちは最近見出しています。私たちの研究では遺伝子転写調節因子であるFOXO1とPGC1αによる骨格筋アミノ酸代謝を解析し、アミノ酸代謝と密接に関連する筋萎縮・肥大について分子機序を明らかにすることを目指します。

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[図2]

それでは、これまでに得られている結果についてご紹介します。まずはFOXO1についてです。私たちは以前、筋萎縮時に骨格筋でFOXO1の量が増加することを見つけました。そこで、骨格筋でFOXO1を過剰発現する遺伝子改変マウスを作製しました。すると興味深いことにFOXO1の過剰発現により筋萎縮が生じました。図3の右上の写真、解剖したマウスの骨格筋ですが、左側が野生型コントロール、右側がFOXO1発現マウスです。このようにFOXO1発現マウスでは、骨格筋の大きさが小さく、色が薄くなっていました。また、DEXAという装置により体組成を調べましたが、筋量が減少していました。このようにFOXO1は筋萎縮を起こす因子であることがわかりました。

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[図3]

PGC1αは運動をした時の骨格筋で発現量が増加します。私たちは、静岡県立大の三浦先生、東京農業大の只石先生らと共同研究でPGC1αに関する解析を行なっています。図4では骨格筋でPGC1αを過剰発現する遺伝子改変マウスについて示しています。解剖した骨格筋の写真ですが、PGC1αの発現により骨格筋が赤くなる、赤筋化することがわかりました。またこのPGC1α発現マウスではBCAA(分岐鎖アミノ酸)の代謝が活性化しました。BCAAは骨格筋のエネルギー源になりますが、このマウスをトレッドミルという運動装置(ベルトコンベアーの上でマウスを走らせる装置)を用いて、持久運動能力を調べました。すなわち、マウスが疲れ果てるまで走らせて、どれだけの時間走り続けることができるか調べました。すると野生型のコントロールマウスは45分ほどでへばってしまいましたが、PGC1αの過剰発現により、1時間以上も走り続けることができました。このようにPGC1αはBCAA代謝を活性化し、持久運動能力を向上させることがわかりました。

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[図4]

このような背景のもと、骨格筋におけるアミノ酸代謝の機序解明と、筋萎縮予防を目指した基盤研究を開始しています。まず、培養細胞を用いた解析と、さらに遺伝子改変マウスの作製を行なっています。そして、運動と代謝の解析、さらに遺伝子と代謝産物の網羅的解析を行なっています。さらに、次のステップとして、骨格筋アミノ酸代謝の健康科学的解析を行ない、筋萎縮予防の機能性食品開発への応用へつなげて行きたいと考えています。

具体的には、今後の研究計画のひとつとして、網羅的解析を試みています(図5)。FOXO1とPGC1αの過剰発現マウス、あるいは遺伝子欠損ノックアウトマウスに対してBCAAを与えたり、運動をさせた時の、代謝産物の網羅的解析、すなわちメタボローム解析を行ないます。また同時にマイクロアレイや次世代シーケンサーを用いて遺伝子発現変化を網羅的に解析します。代謝産物の網羅的解析により、たとえば、血液中に筋萎縮に伴い検出される代謝産物が見つかる可能性があり、これは筋萎縮になる前段階であるかどうかを簡便にチェックするマーカーになりうる可能性があります。一方、網羅的な遺伝子発現解析により、エネルギー代謝や筋肥大萎縮の分化機序に関わり、骨格筋機能に影響を与える遺伝子が発見されれば、機能的意義の解明につながると考えられます。

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[図5]

この研究を行うことにより、図6に示す様な成果を期待しています。すなわち、筋萎縮と運動量減少の悪循環を断ち切る、ということです。筋萎縮抑制の機序解明を行ない、FOXO1経路の抑制方法を同定することができれば、筋量の減少に歯止めがかかります。またPGC1αに関する研究で、運動能力活性化の機序を解明し、適切なBCAA摂取量が決定出来れば、運動量の低下の防止が期待されます。私たちの研究は、この悪循環を断ち切り、サルコペニア筋力低下を防止し、健康増進を目指すものです。すなわち、高齢化社会で問題になっている「ロコモ」の予防改善を目指すというものです。私たちは、この目標達成のために、最大限の努力をしたいと考えています。

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[図6]